『ダイコン』
~消化吸収を助ける、春の七草「すずしろ」~
●プロフィール
[分類]アブラナ科
[原産地]地中海沿岸、中央アジア、中国
[和名]すずしろ、おおね
[おいしい時期(旬)]冬 10~3月
[主な栄養成分] アミラーゼ、ジアスターゼ、イソチオシアネート、カリウム、カルシウム、ビタミンC、食物繊維など
●見分け方
全体にハリとツヤがあり、ずっしりと重いもの。
ひげ根の毛穴が浅く少なめで、あまりゆがみがなく均一に並んでいるもの。
表面がなめらかなもの。
根元の部分が黒ずんでいたり、ヒビが入っていないもの。
葉は色が鮮やかで変色がなく、葉先までピンとしていてみずみずしいもの。
カットされたものは断面がみずみずしく、スが入っていないもの。
葉が切られている場合は、切り落とし部分に乾燥がなく、葉の隙間から新しい葉が生えてきていないもの。(葉が生えているものは鮮度が落ちている)
カットされたものは断面がみずみずしく、スが入っていないもの。
●保存方法
葉付きの場合は、葉が水分と栄養を奪い、風味や食感が落ちてしまうので、必ず根と葉を切り離して保存。
葉はしおれやすいので、できればその日のうちに調理するか、茹でして水気を絞り刻んで冷凍保存する。青みがほしい時などに便利。
根は新聞紙に包み冷暗所、またはラップに包んで冷蔵庫の野菜室で保存。
カットしたものはラップに包んで、冷蔵庫で保存する。
煮物用なら厚さ3cmくらい、味噌汁など汁物用は薄切り、または大根おろしにしてから冷凍するのもおすすめ。
一度に食べきれないときは、干し野菜にすると便利。うま味や栄養価も濃縮されるのでおすすめ。
●ダイコンのヒミツ
・歴史的背景と日本への伝来
原産地については諸説あるが、地中海沿岸や中央アジア、中国ではないかといわれている。その歴史は古く、紀元前3000~2000年頃にはエジプトで食べられ、中国でも紀元前500年頃には栽培が行われていた記録がある。イギリスやフランスなどヨーロッパ諸国で栽培が始まったのは15~16世紀頃だと考えられている。
日本へは中国、朝鮮半島を経て伝来。「古事記」の仁徳天皇の条に「大根(淤富泥:おほね)」の文字を含む歌があることから、奈良時代には伝わっていたと考えられている。また長屋王邸跡で発掘された木簡にも「知佐五束/大根四束……和銅五年十一月八日国足」という記述が見られる。(和銅五年は712年)。これは貴族の屋敷に野菜を搬入した際の荷札ではないかと考えられている。
江戸時代になると栽培も本格化し、全国でさまざまな品種が誕生。現在多く出回っている「青首ダイコン」が主流になったのは1970年代から。
・今も昔も、和食に欠かせない身近な食材
古くは「おおね」で大根の字が当てられていたが、後に音読みの「だいこん」に。春の七草の一つに「すずしろ」と数えられることからも、日本の食卓との深い関わりがあり、和食には欠かせない食材。生でも、加熱しても、漬けても美味しく、干して保存することもできるため、日本人にとっては日常的に馴染み深い野菜である。通年出回っているが、旬にあたる冬の時期の大根は、甘みがより増してくるのが特徴。煮物やおでんなどに向いている。
かつては全国各地で固有のものが栽培され、200品種を超えるといわれるご当地ダイコンが存在したが、最近では青首ダイコンが主流。甘みがあり、大きさも手ごろなことから、流通のほとんどを占めている。漬け物や切り干しなど保存食もあり、地方特有の加工品、郷土食も多い。
●ダイコンの健康パワー
☆注目成分
根:淡色野菜(水分が多く低カロリー)
カリウム、ビタミンⅭ、食物繊維
アミラーゼ、ジアスターゼ、オキシターゼ、イソチオシアネートなど
葉:緑黄色野菜(ビタミン類など栄養豊富)
カリウム、カルシウム、βカロテン、ビタミンC・E、食物繊維など
☆期待される効能
消化促進、胃もたれの改善に。高血圧予防、むくみの解消に。
ガン予防、心筋梗塞予防、脳梗塞予防、動脈硬化予防など生活習慣病予防に。
ナトリウムの排出を促進するカリウムが根にも葉にも比較的多く含まれているため、高血圧予防やむくみ解消に効果が期待できる。
根には胃腸の働きを活性化し、消化を促進するいくつかの酵素が含まれる。アミラーゼやジアスターゼはデンプンを分解する働きがあり、胃もたれや胸焼けに効果があるといわれている。ジアスターゼは熱に弱いため、大根おろしやサラダなど生食でより効果を発揮。うどんやお餅などに添えると消化を助ける。同じく消化を助けるオキシターゼという酵素は、がん予防にも効果が期待できるとして注目されている。辛味成分であるイソチオシアネートにも胃液の分泌を促す効果があるとされ、焼き魚や天ぷらに添えるのは理にかなった食べ方。様々な生活習慣病予防に役立つとも言われている。
大根の葉には骨や歯の形成に必要なカルシウム、免疫力アップによいとされるβカロテンが豊富に含まれているため、葉付き大根が手に入ったら調理して食べるとよい。
切り干し大根ではミネラル成分が濃縮され、カリウム、カルシウム、鉄などが効率よく摂取できる。
●ダイコンの楽しみ方・食べ方
漬物、炒め物、煮物、鍋、サラダ、刺身のつま、大根おろしなど、さまざまな食べ方で楽しめる。
・部位による使い分け
葉に近い上の部分ほど甘く、先に近い下の部分ほど辛味が強くなるので、先端はみそ汁の具、薬味、漬物、マリネに。葉に近い部分は、辛味が少なくかためなので、サラダや炒め物に向く。中央部分は、甘みがありみずみずしくやわらかいため、おでんやふろふきダイコンなど煮物に向いている。
また葉も栄養が豊富なため、漬物や炒め物に。細かく刻んで油で炒め醤油や鰹節、ごまなどで調味すると、ご飯のお供にぴったりなふりかけになる。
※大根は葉に近い上のほうが甘味が強く、先端の下の部分には辛みがある理由は、地上に近い上部は寒さで凍らないように糖度を上げるため甘く、そして先端のほうは土中の虫よけに辛味成分が効果的だからといわれている。
ダイコンのスプラウト(発芽野菜・新芽)はカイワレ大根。一方、春にとう立ちした花の後に出来る若い鞘はさや大根と呼ばれ、食べる事も出来る。
・切り方で食感の違いを楽しむ
生のままサラダにする場合、またさっと浅漬けやマリネなどにするときは大根の切り方で食感が違ってくる。
パリッ、シャキシャキとした歯触りを楽しみたい場合は繊維に沿って縦に切る。細い棒状に切る場合は、あらかじめ棒の長さの幅に大根をカットし、皮を剥いて繊維に沿ってスライスしたものを細く切っていく。薄い短冊にする場合も同様。繊維に沿ってスライスすると歯触りが良い。逆に、繊維に対し直角に切っていくと折れやすく、しかも長さが均等になりにくい。
マリネや浅漬けなど、味をなじませたい場合や、しんなりしたやさしい口あたりを楽しみたい場合は、輪切り、半月切り、いちょう切りなど、繊維を断ち切るように。色付き大根の場合も輪切りなどにスライスしたほうが大根の色が活かせる。
・大根おろしを極める
大根おろしを作る場合、おろし金がとても重要。おろし金のギザギザした刃が鋭い物を使うのがおすすめ。まるくなった物とでは出来上がるおろしの味や食感、口当たりが全く違うものに。銅製の手作りの物などは多少高価でもその価値が実感できる。粗めの食感を楽しむ鬼おろしもおすすめ。和え物やサラダ、蕎麦などに。存在感のある大根おろしも別物の美味しさ。竹製の鬼おろしなどが販売されている。
・下処理
ティーバッグにスプーン1杯程度のお米を入れて一緒に茹でると、アクと苦味が取れて、より一層美味しく頂ける。
煮物として使う場合は下ゆでをしておくとよい。お米のとぎ汁もしくはお米をそのまま少し入れて水からゆがくとアクや苦味が取れる。また皮は少し厚めにむくと、口当たりがよくなる。むいた皮はきんぴらやかき揚げ、漬物などに活用すると、無駄なく食べられる。
・煮物にするときの隠し技
風呂吹きやおでん、ポトフなど大根を煮る場合、隠し包丁という手法を使う。これは味がよく中までしみ込むように、大根の繊維に沿って格子状に切り込みを入れる技。風呂吹き大根などの場合、いったん下茹でする手順が一般的だが、近年はアクがほとんどない品種が多く、時期によってもアクが少ない場合もあるため、必ずしも下茹でする必要はなく、隠し包丁だけでも効果的。また角を面取りすると、煮崩れしにくく形がきれいに仕上がる。
●ダイコンの仲間たち
現在広く一般に出回っているもののほとんどは「宮重(みやしげ)」など「青首ダイコン」と言われている種類のもの、一方全国に古くから栽培されている地大根といわれるものが多数ある。
品種改良も進み、春に収穫される品種から夏、秋、冬と季節によって収穫される品種も変わり、一年を通してそれぞれの四季を感じられるほどに
概して春から夏のものは辛みが強く、秋から冬の寒い時期のものはみずみずしく甘味が増す。一般的に、煮物やサラダ、漬け物などに向いている甘味があるみずみずしい大根の本来の旬は晩秋から冬。辛み大根は初夏から夏が旬となる。
・青首大根
市場に最も多く出回っている。首の部分が緑色なので青首といわれる。太さが均一で長細く、重さは1〜2kgほど。甘味があってみずみずしく、おでんやふろふき大根をはじめサラダや漬け物、切り干し大根など幅広く使える。
・三浦大根
神奈川県三浦半島の特産で、中央部がふくらんだ大型のダイコン。首の部分まで白い白首大根で、甘味と辛味を持ち合わせる。漬け物に、また煮崩れしにくいので煮物にも最適。明治時代から昭和初期に普及していた練馬大根を改良したものといわれ、昭和50年代まで多く栽培されていた。現在はおもに年末に出荷され、お正月のなますなどに利用される。
・聖護院大根
京都の伝統野菜。1〜2kgくらの丸い形で、肉質は緻密でやわらかく、甘味が強いのが特徴。煮崩れしにくく味もよく染み込み、煮物に最適。また千枚漬けにしてもおいしく食べられる。
・桜島大根
かぶのような丸い形で重さが7~20kgにもなる大型のダイコン。鹿児島県の特産で江戸時代から栽培されている。肉質はやわらかくて味が染み込みやすく、煮崩れしにくいのでおでんやふろふき大根に最適。また大根おろしや漬け物、切り干し大根などにも向いている。旬は1月~2月頃。
・亀戸大根
伝統野菜のひとつで江戸時代〜大正時代まで東京の江東区亀戸周辺で多く栽培されていた。長さが30cmくらいと小さめで、肉質が緻密で少し辛味があり浅漬けやぬか味噌にすると美味。現在は葛飾区でごく少量が生産されているのみ。
・練馬大根
東京都の練馬地方で江戸時代から栽培されている伝統野菜。上部が緑色にならない白首大根で、長いのが特徴。大きいものは70〜100cmになる。昭和初期頃から生産量が減り、現在は希少。品種としては基本的に練馬尻細大根(沢庵漬用)と練馬秋づまり大根(煮食・漬け物用)の2つで、収穫時期は11月中下旬頃。
・辛味大根
小ぶりで辛味の強い大根の総称。サイズは10~20cmくらいで、その多くはふっくらと丸みがある。水分が少なく、おろしてそばやうどんの薬味として使うのが一般的。長野県や京都府など各地で栽培が行われている。
・黒大根
皮が黒くて中身は白というユニークな見た目。ヨーロッパが原産で、円筒形のものと丸形のものがある。辛味と苦味があり、かためでコリコリとした食感。皮ごとすり下ろして大根おろしに、皮ごと切ってソテーや煮込み料理、サラダなどにすると一風変わった色彩が楽しめる。
・赤大根
皮が赤いのが特徴。皮が真っ赤なものや赤紫色のもの、中身まで色が付いているものなど品種によって様々。皮が赤くて中が白い中国系のものは、甘味があって緻密で歯ごたえもよく、サラダや漬け物、おろしなどに向いている。小型のレディーサラダは、三浦大根と外国の大根を交配して誕生したもので、甘くてやわらかくみずみずしく人気。おもに神奈川県三浦半島で栽培されていて10月〜3月頃に出回る。
・紅芯大根
丸みのある中国系の大根で、サイズは300~400g程度。皮は白~黄緑色で、カットすると果肉は鮮やかな紅色~赤紫色をしている。甘味があり、シャキシャキした食感なので、色を生かしたサラダや甘酢漬けなどに向いている。
・ラデッシュ
ヨーロッパ生まれの大根で和名は二十日大根。和名の由来は20日くらいで収穫が可能なことから。皮が赤くて中が白い2cmほどの丸型が主流。生のままサラダにしたり、甘酢漬けなどに使われる。5cmほどの楕円形のものや、皮が白いものもある。
・ビタミン大根
中国原産の青長大根。青大根とも呼ばれる。皮と果肉の半分ほどが緑色になるのが特徴で、サイズは20〜25cmくらいと短くて太め。栄養素を多く含むことからビタミン大根の名が付いた。果肉は緻密で辛味は少なく、特に緑色の部分は甘味があり、シャキシャキとした食感。浅漬けやサラダなどに最適。